ホーム>過去の活動報告>ISFM European Feline Congress 2016 Malta Report

過去の活動報告

ISFM European Feline Congress 2016 Malta Report

ISFM European Feline Congress 2016 Malta(桑原 岳)

写真 今年のAAFP Annual Conferenceは、アメリカ合衆国の首都、ワシントンDCで開催され、先ほど全日程が終了しました。参加者は昨年の600名を大きく上回る約1000名。猫医学の重要性、必要性がアメリカ国内でも大きく浸透しつつあることを痛感しました。ただ、日本からの参加は私を含めて2名のみ、しかも知り合いの先生にお願いして、勤務医の先生を出してもらいました。いつも仲良くしている韓国チームは、Korean Society of Feline Medicine (KSFM) の会長をはじめとして10名の参加がありました。うぅ、負けてる。。。しかし、セッションの出席率は負けませんでした、観光は負けましたが、まぁいいでしょう。悔しかったので、「ホワイトハウスくらいは・・・」と歩きましたが、予想外の1時間でヘトヘトでした。来年の6月に内科学会で来る予定なので、観光は次の機会に残しておきます。明朝、日本に帰国します。あぁ、余裕がないのを楽しんでいるかのよう、、、相変わらず融通が利かない性格です。
例年のごとく、Pre-conferenceと称して、American Veterinary Medical Association (AVMA) と国の折衝状況、慢性腎疾患に関する今日のEBM、American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM) からのトピックス、猫の全身性真菌感染症、猫の慢性鼻漏、注射部位関連肉腫のセッションがありました。

【AVMAとFDA (米国食品医薬品局) のつながり】日本では獣医師の裁量として錠剤を粉にすることが可能だと思っています。しかしながら、訴訟社会のアメリカでは、この部分についても国に対して働きかけを行っているようです。現在、日本と同様、FDAが承認した動物用医薬品については粉にして良いと考えられていますが、人体用医薬品を動物用に使用するのは適用外であり、それを粉にすることについての法律は未整備だそうです。人体医薬品の剤形を変更する際は、獣医師が調剤薬局に依頼し、調剤薬局がFDAに問い合わせてから調剤を行っているようです。また、産業動物と小動物では状況が異なるようです。日本と違い、調剤薬局に剤形変更を依頼するわけですから、コストの問題が大きく、また剤形を変更した場合の効果 (quality control) について、課題が残されているようです。日本より厳しい規則のように思われますが、欧米化している日本にも近い将来やってくる状況なのかも知れません。

【Pre-conference その他のトピックス】 いずれの疾患についても、投与する薬剤の種類が増えることによる欠点として、1) 相互作用は大丈夫か、2) 投薬コンプライアンスの遵守が守りにくい、 3) 飼い主が猫のQOLが低下すると感じる、4) 飼い主との関係性が悪化する、などが問題点として提起されていました。また、IRIS (International Renal Interest Society) のCKDグレード分けを元にして、治療介入はもとより、栄養学についての提言がありました。
ACVIMからのトピックスとしては、全体として各種検査の感度と特異性が強調されており、臨床獣医師が検査の性質を詳細に理解すべきであるとの提言がありました。全身性真菌性疾患では、抗真菌薬の剤形による吸収率の差異、疾患の地域性、日本では比較的発生率の低い真菌性疾患の解説がありました。猫の慢性鼻漏では、全身アプローチからの細菌性、真菌性、腫瘍性、アレルギー性、異物性、歯牙疾患による鼻漏の解説がありました。ここら辺でお腹一杯の1日目でしたが、極めつけは線維肉腫の話が締めくくりで、最も印象に残ったのは、「1985年以前にはワクチン関連性線維肉腫がなかったのを覚えていますか?」「わざわざワクチンを痛い部位に接種して、線維肉腫ができたら段脚すれば良い、、、安直すぎませんか?」という2点でした。「先生方、ディスカッションに参加しましょう!!」、良いですね。色々な考え方があって、賛否両論の事柄については徹底的にディスカッションし、いずれ何らかの方向性ができる。将来的に間違っていたとしても、「この時代、この時に真剣に猫のために話し合う」、なんとも言えず胸が熱くなりました。

【行動学と呼吸器病からのトピックス】 続く2日目と3日目は行動学。「行動学か!?」という事なかれ、「行動学から見た各種疾患」というのも、私にとっては新たな境地でした。何というか、「疾患状態の猫における行動学」とでも言うのでしょうか。セッションは正常な猫の行動学に始まり、家庭環境の整備、病院での接し方、老齢猫の疾患と行動に現れる症状、治療を行う上での環境整備について午前中は1会場、午後からは2会場でそれぞれのテーマでセッションがありました。3日目は3会場に分かれて、獣医師向け2会場、動物病院向け1会場でそれぞれセッションが組まれ、行動学から見た各種疾患における症状の現れ方、猫の行動が意味する疾患状態、動物病院スタッフが知っておきたい健康な猫と病気の猫の接し方について熱いディスカッションが展開されました。
写真  最終の4日目は猫の呼吸器疾患についてセッションが組まれ、猫の呼吸器疾患の中で多くみられる喘息と慢性気管支炎、慢性鼻疾患、発咳に対するアプローチ、上部呼吸器疾患、歌下部呼吸器疾患について、吸入剤を含めた薬物療法を中心に猫と犬との違い、賛否両論事項、大学での診療方法などについてのセッションがありました。印象的だったのは、アメリカの一般臨床医は呼吸困難の際にブトルファノールの筋肉内、皮下投与をしていたのに対して、大学で診療を行っている先生はブトルファノールを使用していませんでした。理由として、「猫は犬に比べて呼吸困難で不安になることが少ないと考えられ、とにかく基礎疾患のコントロールに全力で取り組むことが重要」と言われており、私は激しく賛同しました。

【全体を通しての感想】 若い頃、アメリカの学会に来ては、専門医の言うことが全部正しく、日本でそのまま実践していました。年齢を重ね、経験を積んでいる今、セッションを聞いても、100%賛同するばかりじゃない自分がいます。「えーっ、そうかなぁ、違うと思う」という意見をもち、少しですが専門医とディスカッションしてみると、今回会った専門医は「ほぉ?、そうなんだ。診療の時に心がけてみるよ」と聞く耳をもってくれました。図に乗って、これからも自分の意見を言って、良いところは真似して、そうでないところは相手が納得してくれるような結果を発表したいと強く思った学会でした。
去年友達になったMs. Bug とDr. Ken Lambrechtと再会することができ、新しい知り合いも何人か増えました。一人で参加していると、こちらに知り合いが少しずつできますが、時々日本食を食べたいのと同様、日本語が喋りたくなります。冒頭にも書きましたが、今年は知り合いの先生のところの勤務医の先生に構ってもらえましたが、来年は未知数です。2017年のAAFP annual conferenceは、この時期にコロラド州デンバーで開催されます。もちろん、私は参加する予定ですので、是非一緒に聴講しましょう、そしてディスカッションしましょう!!
写真