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過去の活動報告

【JSFM後援】第148回JAHA国際セミナー 開催報告

日時 2015年12月4日〜6日
2015年12月4日(金)〜6日(日)東京(飯田橋レインボービル)、12月8日(火)~10日(木)大阪(天満研修センター)において、JAHA国際セミナーが開催されました。
講師の先生は、英国において猫専門医のSara Caney先生、DSAM(Feline),MRCVSで「スペシャリストが教える猫医学のコツと最新情報‐高齢猫の最適ケア−を目指して−」と題し、各会場において3日間の非常に内容の濃いセミナーでした。
Caney先生は、スコットランドの猫専門病院にて診療に携わり、またVetProfessionals Ltd.(http://vetprofessionals.com/)の代表取締役としても様々な学術活動や、isfm(国際猫医学会)主催のセミナー講演、動物看護師向けのFeline Focusなど多くの執筆活動にも従事されおり、猫医学の発展に非常に精力的にご活躍している先生のお一人です。特に高齢期に多く認められる猫の疾患管理について力を入れていらっしゃります。セミナーでは先生の経験した症例を交え基礎的な話だけでなく、臨床で遭遇する問題点、考え方や解決策について非常に分かりやすく、且つ猫ならではの情報が沢山盛り込まれており参加者の多くは、3日間通して出席されている方が殆どでした。

1日目は、高齢猫において特に早期診断のため定期健診の重要性について、行動検査、尿検査、血圧測定や血液化学検査についてご紹介ありました。特に体重変動は非常に重要な指標であり、人間とおきかえてご家族の方に説明することで理解して貰うことの重要性を改めて確認しました。200〜300gの体重変動はヒトにおいて、日内変動と軽視されがちですが、猫(犬も)においては体重の5%に相当すると言うことを忘れてはなりません。
画像
体重変動 ヒト(65kg) Cat(4kg)
2.5% 63.4kg(-1.6kg) 3.9kg (-100g)
5% 61.8kg (-3.2kg) 3.8kg (-200g)
7.5% 60.1kg (-4.9kg) 3.7kg (-300g)
10% 58.5kg (-6.5kg) 3.6kg (-400g)

また、isfmが提唱している高齢期猫のガイドライン(AAFP-AAHA Feline Life Stage Guidelines)によると中高齢期の猫において成年期(Mature:7~10歳)、高齢期(Senior:11〜14歳)と老齢期(Geriatric:15歳以上)に分けられており、講師はこのガイドラインに沿って高齢期に相当する猫にはBody Condition Scoreや全身の身体検査に加えて2回/年、老齢期の猫には3~4回/年の定期健診を行っている。
血圧 尿検査(スティック検査、USG) 血液検査(血液化学検査、CBC、総T4)
成年期 Mature
7~10歳
 
高齢期 Senior
11~14歳
老齢期 Geriatric
15歳以上
※レ:1回/年、◎:2回/年、●:3~4回/年
高齢期以上の猫における、血液検査の頻度は臨床的状況を考慮して適宜実施

2日目は、高齢猫において特に多い慢性腎臓病(CKD)についてその診断から治療に至るまでを症例を交えて紹介がありました。早期診断における尿検査の重要性や適切な尿サンプルの扱いについても非常に分かりやすく解説頂きました。尿比重の評価には屈折計を用いることが重要であり、USG<1.035-1.040はグレーゾーンとして捉え、理想的には再度半年以内に検査を実施する。またUSG<1.035で且つ高窒素血症を伴わない高齢猫においては腎疾患、甲状腺機能亢進症や糖尿病との鑑別診断が特に重要となる。CKDと診断したら、早期から治療を実施することが非常に重要であり特にP制限によって予後が大きく変わります。早期からP制限食(腎臓病用療法食)を用いることで、生存期間が2~3倍延長すること、また末期のCKDでは食欲減退に伴い療法食に切り換えることが難しくなるなどのことから、講師は早期の食欲に問題のない時期(USG<1.035で且つその他の除外診断によって腎性と疑われる場合)から療法食に切り換えることを推奨している。また、CKDと診断し治療する上で、ご家族の方へ悲観的な印象を与えるのではなく、早期に適切に管理することで十分長期間におよぶ管理ができ、生活の質を良好に維持出来ると言うことをしっかり説明し、ご家族の方が早期に異常に気が付けるよう教育することが大切です。

3日目は、甲状腺機能亢進症、骨関節炎と難治性の便秘の管理について先生の経験を踏まえ紹介がありました。英国では放射線ヨウ素治療が実施可能とのことで、甲状腺機能亢進症に対して、抗甲状腺薬、外科的治療、放射線ヨウ素、食事療法食が治療の選択肢となっている。国内において、放射線ヨウ素治療は実施できませんが、薬を受け入れる猫においては薬物治療で一生涯付き合っていくことが可能です。また、投薬の難しい猫であれば、食事も選択肢の一つになりますが、薬との併用が推奨されず効果が発現するまでに時間がかかるため、ご家族の方のライフスタイルや猫の性格などを考慮し薬や外科的処置と組み合わせて管理していくことが重要です。また、高齢猫においてこれまではあまり重要視されてきませんでしたが、骨関節炎についても見逃してはいけません。ご家族の多くは、寝ている時間が増えたのは加齢に伴う変化であり、異常な変化として認識している人が少なく過小評価されがちです。実際には痛みのため、運動能が低下している可能性などを考慮して定期健診の際には適格な問診を実施することが大切です。

3日間のスケジュールは以下の通り(JAHA セミナーHPより引用)

1日目:
  • 血液および尿採取の高齢猫に優しいコツ
  • 高齢猫に対する予防医療
  • 院内および外部尿検査
  • 鎮静をかけていない猫の血圧測定と解析
  • はっきりとした臨床徴候を伴わない体重減少
2日目:
  • 慢性腎臓病(CKD)患者の診断とさらなる評価
  • CKD患者の長期管理の黄金律
  • CKD患者の長期ケアを上手に行う病院をつくる
3日目:
  • 甲状腺機能亢進症の診断:最新情報
  • 甲状腺機能亢進症に対する最適な管理
  • 骨関節炎と高齢猫:診断と治療のコツ
  • 便秘と高齢猫
  • 原発性アルドステロン症
3日間のセミナーはすぐに臨床に応用できる内容が多く、みなさん沢山メモをとったり、先生に質問をされていたのが印象的でした。講師の先生にとって初めての日本での講演となったようですが、今まさに求められている講義内容であったのではないかと思います。今後もisfmを始めとして猫専門医の先生方から学ぶ機会が増えて、国内における猫医学がさらに発展することを当会としても祈念しています。

開催風景

開催風景