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キャット・フレンドリー・クリニック

インタビュー記事

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Q:CFCを取得しようと思ったキッカケは?

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私が初めて「キャットフレンドリー」に出会ったのは、勤務医1年目の時でした。勤務病院(マーブル動物病院、神奈川県)を来訪したMargie Scherk先生(元AAFP President)の講演と猫の診療に対する心構え、この時に得たものが今でも「キャットフレンドリー」診療の土台になっています。

勤務病院には猫専門の学術雑誌Journal of Feline Medicine Surgeryが定期的に届いていました(後ほどAAFPの会員であったことを知りました)。学術的でありながら、「猫好きの猫好きによる猫のための」論文という独創性に惹かれ、昼食弁当を片手に愛読していました。父の動物病院を継承してからは、昼食時の愛読書を定期購読するため、ISFMの門をたたくことになりました。

当時、日本のISFM病院会員は数えるほどしかありませんでしたので、どこにどんな先生がいらっしゃるか、容易にそらんじることができました。そんな中、とある学会で偶然ISFM病院会員の東山哲先生と意見交換をする機会がありました。「ISFMは猫医学の追求だけでなく、キャットフレンドリーな病院(CFC)を世界中に啓蒙している団体なんだよ」と熱心に語る東山先生の「猫観」に自然と引き込まれてしまいました。

私自身の持っているキャットフレンドリー情報には限りがありますが、当院のように犬の診察をメインに行ってきた、都市部の限られた間取りの動物病院でも、キャットフレンドリーな診察が可能であることを、皆さんにお伝えするのが私の使命だと思っています。

Q:CFC基準から学んだことを教えてください

CFC基準のチェックシートを埋める作業は「項目に目を通し、院内を見回し、クリアしていたら、チェックをつける」の繰り返しでした。しかし「院内を見回して、クリアしていない」場合は、課題に対してどのような解決策を練るか、という作業でした。院内家具を採寸したり、インターネット通販で検索したり、時にはホームセンターに走り、タオル工場と交渉し、パワーポイントで電子掲示を作り替え…。ですから、クリアしていなかった項目は全て、CFC基準を満たすべく、数週間試行錯誤した中で学んだことなんです。チェックシートを埋めながら多くの学びがありました。

手術・検査で入院していた猫を連れて帰る時には、「同居の猫ちゃんと会わせる時はちょっと工夫しようね」と言えるようになり、また「今度、病院に連れてくる時はキャリーに目隠ししようね」とひとこと声をかけることで、ご家族の信頼・安心感がぐっと高まる事も幾度となく経験しました。CFCの基準には、設備・看護・心構えのエッセンスが盛り込まれているので、キャットフレンドリーな診察をするためにも、是非目を通しておくべきだと思います。

シルバー認定を取得した当時、私の病院は獣医師一人、看護師一人という状況でした。CFC認定基準には無理難題の押し付けはありません。きちんと主意が理解できていれば、クリアできる内容です。猫専門従事者が必要ですけれど、獣医師が兼任しても大丈夫ですし、仕切りを付けられない待合室が設けられなければ、キャリーにタオルをかけるだけでも悪くないと書いてあります。大掛かりな工事は必要ありません。「病院スタッフが猫ちゃんのために考えた優しい工夫」を一つ、また一つ積み上げるだけで取得できる資格なので、多くの病院が取り組んで行ける認定だと思います。CFC認定のための更新費用もかかりません。ISFM病院登録の年会費だけです。

Q:診察室、入院室、待合室のこだわりを教えてください
  • 診察時間写真 待合室では、犬と猫の物理的な隔離ができないので、時間的隔離を実施しています。毎日朝の8時半〜9時と夕方の診察前の16時〜16時半までの30分間だけ、キャットアワーを設けています。定時に受診できるので、率先して予約をしていかれる方が多いですね。診察時間前の30分ですので、今まで開院準備に当てていた時間を利用して、スタッフの休み時間を削らずに実施しています。手術時間と重なる事もないですし、実際に始めてみて大きな負担は感じません。格段に診察の質が高まっているように感じますし、ご家族の方にも喜ばれているように思います。
  • 待合室写真 キャリー目隠し用のカバーをかけてもらうようにしています。初めて来院される方には、ディスポーサブルのテーブルクロスにステッカーを貼った「病院特製目隠しカバー」をお渡ししています。来院に慣れている方は覆い布を持参されています。受付・会計時にキャリーを地面に置かなくて済むよう、幼児用机を利用したキャリー台を設置しています。またフェリウェイ®の噴霧を行っています。診察室が空いていれば、早めに診察室に入ってもらって空間に馴れてもらうようにしています。
  • 診察室写真 一度診察室に入って頂いたら、なるべくスタッフの出入りや、猫ちゃんの部屋移動が少なくなるよう気を付けています。幸い診察室が1つしかないので、X線検査以外の検査(エコー、血圧測定、眼科検査など)は診察室内で一通り済ませられるよう器械・器具類を収納しています。保定は原則1名の看護スタッフが行います。入交先生推奨のタオル保定を行い、ご家族の方にあやしてもらいながら診察・検査をしています。
  • 入院室写真

    犬猫兼用の入院室で6部屋しかありません。猫ちゃんの部屋は、ワンちゃんの部屋と対角線上、上段に位置するようにしています。吠えるにぎやかなワンちゃんが入院している時は、半日入院の場合に限り、静かな手術室に移動して、簡易ケージ内で預かります。

    ケージ内の段差や隠れ場所は、入院猫ちゃんの快適性・安心感につながります。当院ではステンレスケージ内にプラスチックケースを入れて、猫ちゃんの入院生活が快適になるよう努めています。ホームセンターに通いつめては、適当なサイズのケースを探し回ったのですが、良いものがなかなか見つかりませんでした。このケースを見つけたときには、当院の入院室にぴったりなので嬉しかったですね。

    ケース内で休んだり、上に乗っかったりして過ごしている猫ちゃんを見ていると、骨折って探し出した甲斐があったな、といつも思います。入院中の検査の際も、入口の蓋を閉じてケースごと連れ出せば、ケージから無理矢理引っ張り出す必要がありません。ケージ内での格闘が劇的に減りました。汚れた時には水洗い・消毒もでき衛生的です。

Q:犬と猫の接し方の違いはありますか?

実際にはあんまり意識してないですね。
というのが、当院では小中型犬の来院が多いですが、オーナーとの主従関係が正しく形成されていない犬の来院が少なくありません。診察台の上にのせられた犬は、ビクビク、おどおどしていて、家族とのアイコンタクトも上手くできない。もちろん、コマンドも通らない。正面から顔を触ろうとすると、恐怖のあまり、攻撃的になってしまう。

そんな犬の診察をするためには、やはり時間をかけてご家族と談笑することで、敵意・害が無いことを犬に見せなければならない。驚かさないように、ゆっくり体の側面から近づいてそっと触診する。無我夢中で診察台から逃げ出したい犬の体をタオルで優しく包んで保定する。いずれも、「キャットフレンドリー」な診察をする上で重要な要素です。

当院は犬猫の混合診療を行っておりますので、犬・猫・犬・猫の順にカルテが並ぶことがあります。猫ちゃんの診察前は念入りに手を洗って、匂いを消して、白衣・手・聴診器にフェリウェイを噴霧して臨みます。診察中の部屋の出入り・不要な動作を減らすために、カルテを一読して、検査・診察に必要なものはあらかじめ診察室に準備しておきます。猫じゃらしとキャットニップも忘れてはいけません。

Q:実際にCFCを取得していかがですか?

待合室に掲示してあるCFC認定証を見て、「ふーん、この病院、猫に優しいんやね〜」と関心しながら待っているご家族が増えました(笑)。

猫の方が飼育しやすい都市部であるという理由もありますが、猫ちゃんの来院数は確実に増えています。事実2年前と比べて、猫の新規患者が全体の30%だったのが、現在は50%に増加してきています。繁忙期を過ぎてからの来院数が安定するようになっているようです。「猫の診察って収益につながらんでしょ?」ってよく言われます。でも前述のように、当院のような小規模病院では、経営面でのメリットが少なからずあるように感じます。

CFCのシルバー認定を受けたことで、「国際的な認定」を受けていることを強く自覚するようになりました。キャットフレンドリーって「洋服」みたいなものでいつでも着られるし、いつでも脱げるものだと思っています。だからこそ猫ちゃんに優しくしようと思ったらいつでもできるし、認定を受けている以上ピシッと胸をはって「洋服」を着てお迎えしたいですね。

Q:先生が考えるCFCのあり方とは?

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「キャットフレンドリー」な診察って、「キャットフレンドリー」を身にまといながら診察することだと思うんです。「キャットフレンドリー」の「洋服」ですね。基本を外さなければ、町の小さな動物病院でも虚勢を張らずに羽織れるのがキャットフレンドリークリニックです。

だからこそ、今後キャットフレンドリークリニックは増えてこなければいけないものだと思っています。わざわざ車で連れて行かなければいけない猫専門病院に通うよりは、歩いてすぐに行けるようなキャットフレンドリークリニックに通う方が、猫にとっては間違いなくキャットフレンドリーです。もちろん、猫専門病院に通うメリットはありますけどね。そういった事実を家族の方が知っておかなければいけないし、動物病院側も準備を整えておかなければいけない。まだ、日本にはCFCが少なすぎると思います。それを潜在的に望んでいる猫の家族の方がたくさんいるのに。

だからこそ、今後ホームドクターの先生方にはどんどんキャットフレンドリー診療を実践して頂きたいし、家族の方にはCFCを知ってもらいたいし選んでほしい。CFCは動物病院スタッフとご家族の思いが上手く融合して初めて生まれるものだと思います。

また、私よりも多く経験を積んで実践されている先生方・看護師さんが、どのような「技」で猫と接しているか、どんな「工夫」をして猫に優しい看護をしているのか、非常に興味を持っています。私自身、獣医師としての経験はそう長くありません。皆さんが隠し持っているキャットフレンドリーな工夫を教えて頂きたいなと強く思っています。「おもてなしの国」日本ならではの発想が必ず反映される国際的にも興味深い獣医療の一分野だと思います。和製キャットフレンドリーの「和服」を世界のキャットグループに発信する日が来ることを確信しています。